11月の早朝、セットの合間の波待ち。さっきまでガタガタ鳴っていた歯が、ふと静かになる。「お、体が慣れてきた」と、もう1本、あと1本と粘ってしまう。実はこの「静かになった瞬間」こそ、体が熱を作るのをあきらめかけたサインかもしれません。
秋から冬にかけて、水温はゆっくり下がり、気温と風は一足先に冬になります。この時期に一番知っておくべきなのは、寒さを我慢するコツではありません。「どの症状が出たら海から上がるのか」という線引きです。
この記事では、サーフィン中に低体温症がどう進むのかを軽度・中等度・重度の段階で整理します。そのうえで、上がる基準を7項目のチェックリストにまとめました。海から上がった後に体温がさらに下がる「アフタードロップ」の正しい対処、逆にやってはいけないこと、装備で防げる部分まで一気通貫で解説します。
※本記事は救急医学会・消防庁・山岳医療機関などの公開資料をもとにした一般的な安全情報です。診断や治療を示すものではありません。震えが止まる・意識がはっきりしないなど重い症状が疑われる場合は、迷わず119番(海上の事故は118番)に通報してください。
目次
- サーフィンで低体温症は本当に起きる|水中の熱喪失は空気の約25倍
- 低体温症の進行段階と自覚症状|軽度・中等度・重度
- 「震えが止まったら回復ではなく悪化」という最重要サイン
- 上がる基準7項目|時間・水温・風・震え・手指・言葉・判断
- 海上がり後のアフタードロップ|着替え・加温の正しい順番
- やってはいけない対処|熱い風呂に直行・飲酒・こする
- 装備で防げる部分|ウェット・フード・グローブ・ブーツ・お湯
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|「震えが止まったら上がる」を合言葉に
サーフィンで低体温症は本当に起きる|水中の熱喪失は空気の約25倍

「ウェットを着ているのに低体温症なんて、大げさじゃない?」と思う方は多いはずです。ですが、水の中に長時間いるサーフィンは、実はスポーツの中でもかなり熱を奪われやすい種目なんです。まずは、なぜ海では体が冷えるのかを数字で押さえておきましょう。
水は空気の約25倍の速さで熱を奪う
水の熱伝導率は空気の約25倍とされています。つまり、同じ18℃でも空気の中に立つのと海に浸かるのでは話が別です。体から逃げる熱の量が桁違いに違います。
人が水中で「快適」と感じられるのは、目安として水温27℃以上といわれます。日本の海で27℃を超えるのは真夏の一時期だけ。秋の湘南や千葉の水温は10月で21〜23℃、11月で18〜20℃、12月には15〜17℃まで下がります。裸で入ればどの月でも冷えていく温度帯です。
参考までに、ウェットスーツなしで動かずに浮いている場合の目安を挙げます。米国沿岸警備隊系の資料で広く引用されている数字です。
| 水温 | 動けなくなる(疲労・意識低下)までの目安 | 日本の海でいうと |
|---|---|---|
| 21〜27℃ | 3〜12時間 | 夏〜9月の太平洋側 |
| 15〜21℃ | 2〜7時間 | 10〜12月上旬の湘南・千葉 |
| 10〜15℃ | 1〜2時間 | 1〜3月の関東・関西太平洋側 |
| 4〜10℃ | 30分〜1時間 | 真冬の日本海側・東北 |
| 4℃未満 | 15〜30分 | 北海道・厳冬期の日本海 |
もちろん、実際のサーファーはウェットを着てパドルで熱を作っています。この表は「素の人間はこれだけ弱い」という前提を知るためのものです。ウェットは、この時計の針をゆっくりにしてくれる道具にすぎません。
ウェットスーツは熱喪失を「遅らせる」だけ
ウェットスーツの仕組みは、生地の中に閉じ込めた気泡と、体とスーツの間の薄い水の層で断熱することです。断熱であって発熱ではないので、時間がたてば必ず体温は下がります。
たとえば水温16℃で5mmのセミドライを着ていても、2時間を超えると指先の感覚が鈍ります。3時間目には多くの人が震えを経験します。体格や脂肪量、その日の睡眠や食事でも大きく変わるものです。「先週は3時間いけたから今日も大丈夫」は通用しません。
「疲れるまで入る」が夏の感覚だとすると、秋冬は「冷える前に上がる」に切り替える必要があるわけです。
秋が一番危ない理由は水温ではなく「風と油断」
意外かもしれませんが、真冬より秋のほうが低体温症のヒヤリは多いと感じています。理由は3つあります。
1つ目は装備の油断です。10月はまだ3mmフルスーツで入れる水温ですが、上がった瞬間に北風が吹くと、濡れた体は気化熱で一気に冷えます。真冬はセミドライにブーツ・グローブと完全武装なのに、秋は「まだいける」で装備が軽いままです。
2つ目は気温と水温の逆転です。秋は水温が気温より高い日が多く、海の中のほうが暖かい。だから上がるタイミングを逃し、上がってから震えが止まらない、という流れになりやすいんです。この気化熱と風の関係は、秋サーフィンの寒さ対策|効くのは水温より風で詳しく解説しています。
3つ目は波の良さです。秋は台風うねりと低気圧うねりで一年で一番波が良い季節。「波が良くて、やりすぎた…」がそのまま低体温症の入り口になります。
低体温症の進行段階と自覚症状|軽度・中等度・重度

低体温症とは、体の中心の温度(深部体温)が35℃以下に下がった状態を指します。ここで重要なのは、脇の下で測る普通の体温計では深部体温は測れないということ。つまり、海の現場では体温の数字ではなく「震え」と「意識」で段階を判断するしかありません。
国際的に使われている段階分類(スイス分類)と、日本救急医学会の区分を、サーファー目線の自覚症状に翻訳したのが次の表です。
| 段階 | 深部体温の目安 | 本人の自覚症状 | 周囲から見えるサイン | とるべき行動 |
|---|---|---|---|---|
| 軽度(HT I) | 35〜32℃ | 寒い、歯が鳴る、指先がかじかむ、口数が減る | ガタガタ震えているが受け答えは普通 | 次の波で上がる。乾いた服に着替え、温かい飲み物 |
| 中等度(HT II) | 32〜28℃ | 震えが弱くなる・止まる、眠い、なんとなく気分がいい | 呂律が回らない、ふらつく、ボードを落とす、つじつまが合わない | 入水中止。動かさず横にして体幹を保温、119番 |
| 重度(HT III) | 28〜24℃ | 意識がもうろう〜なし | 呼びかけに反応しない、呼吸が浅い | 119番。乱暴に動かさない。呼吸確認、AED手配 |
| 最重度(HT IV) | 24℃未満 | ― | 呼吸・脈がない | 119番、心肺蘇生・AED |
軽度:震えが「止まらない」段階
波待ちで歯が鳴る、リーシュを外す手がもたつく、ジッパーのひもがつまめない。このあたりが軽度のサインです。震えは筋肉を細かく動かして熱を作る防御反応で、体にまだ発電する余力が残っている証拠でもあります。
この段階なら、上がって着替えて温かい飲み物を飲めば、たいてい10〜20分で回復します。ポイントは「この段階で上がれるかどうか」で、その後の展開がまったく変わることです。山岳医療の専門家も「震えのある段階で改善するのが一番安全で早道」と明言しています。
中等度:震えが弱まり、動きと言葉が乱れる段階
軽度を無視して入り続けると、震えがだんだん弱くなり、代わりに手足の協調が崩れます。テイクオフで踏み込めない、パドルが左右バラバラになる、ボードの上に座り直せない。
周りから見ると、呂律が怪しい、質問への返事がずれている、なぜか笑っている、といった変化が出ます。本人は「なんか眠い」「意外と平気」と感じていることが多く、自分では判断できません。ここからは、本人の意思より周囲の判断を優先すべき段階です。
重度:震えが止まり、意識がなくなる段階
さらに進むと震えは完全に止まり、意識がもうろうとして、最後には反応がなくなります。この段階は救急対応の領域で、海の現場でできるのは「動かさない・保温する・119番・AED」です。サーフィンでここまで進む例は多くありませんが、真冬の遠浅ポイントで流されて長時間漂流したケースなどでは現実に起こり得ます。
「震えが止まったら回復ではなく悪化」という最重要サイン
この記事で一つだけ覚えて帰ってほしいのが、この見出しです。多くの人は「震えが止まった=体が慣れた・温まった」と解釈します。ですが低体温症の進行では、震えが止まるのは「熱を作るエネルギーが尽きた」合図なんです。
震えは体の「発電機」、止まるのは燃料切れ
震え(シバリング)は、安静時の数倍のエネルギーを使って熱を作る仕組みです。燃料は筋肉と肝臓の糖。空腹で入る、睡眠不足で入る、二日酔いで入る、といった条件がそろうと、この発電機は早く止まります。
深部体温が32℃前後まで下がると、体は「これ以上震えても割に合わない」と判断して震えを止め、末梢の血管も一度ゆるみます。すると皮膚に血が戻って、一時的に「あれ、暖かくなってきた」と感じるんです。これが最も危険な錯覚です。
止まる2パターンの見分け方
震えが止まるパターンには「回復して止まる」と「悪化して止まる」の2種類があります。海の中で見分けるポイントは次の3つです。
| チェック | 回復して止まった | 悪化して止まった |
|---|---|---|
| きっかけ | 上がって着替えた・温かい飲み物を飲んだ後 | 海に入ったまま、または濡れたまま風に当たったまま |
| 手指の動き | ジッパーやリーシュをスムーズに扱える | 相変わらず不器用、むしろ悪化 |
| 頭の状態 | 会話が普通、眠気なし | 眠い、ぼんやり、気分がいい、口数が減る |
「海に入ったまま震えが止まった」は、ほぼ例外なく後者です。温める行動を何もしていないのに震えが止まったら、その場で上がってください。
眠気と「妙な心地よさ」は赤信号
中等度に入ると、判断力そのものが落ちます。「もう1本」「まだ平気」という判断が、すでに冷えた脳から出ているわけです。眠気、だるさ、寒いはずなのに気持ちがいい、という感覚が出たら、それは体からの最終警告だと思ってください。
一人で入っているときほど、この段階を自覚するのは難しくなります。秋冬は仲間と入る、あるいは浜にいる人に「○時までに上がってこなかったら声をかけて」と頼んでおく。この「外部の目」が、低体温症では一番効く安全装置です。
上がる基準7項目|時間・水温・風・震え・手指・言葉・判断
ここまでの知識を、海の中で使える形にしたのが「上がる基準7項目」です。環境の3項目と、体の4項目に分かれます。ルールはシンプルで、体の4項目のうち2つが重なったら、次の波で上がる。環境の3項目は「その日の持ち時間」を決めるために使います。
| # | 項目 | 上がる基準 | メモ |
|---|---|---|---|
| 1 | 時間 | 1ラウンド90分。水温15℃以下は60分 | 波が良くても一度上がって入り直す |
| 2 | 水温×装備 | 装備が水温帯に合っていない日は時間を半分に | 3mmで18℃以下、ブーツなしで16℃以下は要注意 |
| 3 | 風 | 風速7m以上の北風・オフショアは上がった後が危険 | 風速1mで体感マイナス1℃。着替え場所を先に確保 |
| 4 | 震え | 波待ちで震えが止まらない/温めていないのに止まった | 「止まった」は即撤収 |
| 5 | 手指 | リーシュの着脱、ジッパーがつまめない | 握力低下はパドル力の低下にも直結 |
| 6 | 言葉 | 呂律が回らない、口数が減る、返事がずれる | 一緒に入っている人が気づきやすい |
| 7 | 判断 | 波選びが雑になる、眠い、妙に気分がいい | この段階は本人より周囲の判断を優先 |
環境の3項目|その日の「持ち時間」を決める
時間・水温×装備・風の3つは、海に入る前に決めておく項目です。基本は「1ラウンド90分」。これは体が冷える前に一度リセットする区切りで、迷ったら上がって入り直すほうが、結果的に長く海にいられます。
水温15℃を切る日や、ウェットが水温帯に対して薄い日は、この持ち時間を60分に短縮してください。風は入水中より「上がった後」に効くので、風速7mを超える日は着替え場所の確保と、上がる時刻の前倒しをセットで考えます。風の判断はサーフィンは風速何メートルまで?も参考にしてください。
体の4項目|2つ重なったら次の波で上がる
震え・手指・言葉・判断の4つは、入水中に自分と仲間をチェックする項目です。1つだけなら「あと10分で上がろう」でも構いません。ただし2つ重なったら、次の波、あるいは次のセットで確実に上がる。ここに例外を作らないことが大事です。
特に「震えが止まった」と「眠い・気分がいい」の組み合わせは、2つではなく即撤収の扱いにしてください。この段階はすでに中等度の入り口で、次の波を待つ余裕はありません。
「もう1本」を防ぐ仕組みを先に作る
低体温症の本当の敵は寒さではなく、「まだいける」という判断力の低下です。だから、判断に頼らない仕組みを先に作っておきましょう。おすすめは3つ。
- 時計を見る癖をつける:入水時刻を防水時計かボードのテールに書く
- 仲間と「上がる時刻」を先に決める:どちらかが基準に触れたら二人とも上がる
- ポリタンクのお湯を用意しておく:上がった後の楽しみがあると上がる決断が軽くなる
この考え方は、サイズアップや雷のときと同じです。サーフィンのコンディション判断|入る・やめるの基準7項目と合わせて、自分の「やめる基準」を一枚にしておくと迷いが減ります。
海上がり後のアフタードロップ|着替え・加温の正しい順番

「上がったから安心」ではありません。実は海から上がった後こそ、深部体温がさらに下がる現象が起きます。これがアフタードロップです。
アフタードロップとは|上がってから体温がさらに下がる
水中では、体は手足の血管を絞って、温かい血液を体幹に集めています。海から上がって動き出したり温めたりすると、この末梢の血管が開き、冷え切った手足の血液が一気に体幹へ戻ります。その結果、深部体温がさらに下がる。これがアフタードロップの仕組みです。
冷水からの救助例では、深部体温が救助後に3〜4℃下がったという報告もあります。サーファーで日常的に起きているのは、そこまで極端ではない軽い版です。「上がった直後より、着替え終わった頃のほうが寒くて震える」という経験、ありませんか? あれがアフタードロップです。
そして、上がった直後は「気化熱+風」という別の熱喪失も同時に起きます。濡れた体に北風が当たると、水温より圧倒的に速く熱が逃げます。だから海上がりの10分は、その日一番体温を奪われる時間帯なんです。
正しい順番|風を断つ→濡れを断つ→体幹から温める→糖分
順番を間違えると、同じ10分でも回復スピードがまったく違います。順番は「風→濡れ→体幹→糖分」です。
| 時間 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 0〜2分 | 風を断つ:ポンチョかドライローブを頭からかぶる | 濡れたウェットのまま風に当たる時間を最短に |
| 2〜5分 | 濡れを断つ:ウェットを脱ぎ、タオルで体幹から拭く | 頭・首・体幹が先。手足は後回しでいい |
| 5〜10分 | 体幹から温める:乾いた服、腹・脇・首にカイロやお湯 | 手足を先に温めない(末梢が開いて深部が下がる) |
| 10〜30分 | 糖分と温かい飲み物:甘いココア、スープ、白湯 | 震えの燃料は糖。カフェイン強めのコーヒーは避ける |
ここでの主役はポリタンクのお湯とドライローブです。お湯は「体幹にかける」用途で使い、頭から浴びて風に当たり続ける使い方は逆効果になります。着替えの段取り全体はサーフィンの着替えおすすめ|ポンチョ・ドライローブ・バケツ比較にまとめています。
着替えた後30分は「様子見の時間」
着替えて温かい飲み物を飲んだら、すぐ運転せず、車内で30分は様子を見てください。震えが自然に収まり、手指が普通に動き、会話が普通にできればOKです。
逆に、30分たっても震えが続く、ぼんやりする、眠気が強い、という場合は軽度から中等度へ進んでいる可能性があります。無理に運転せず、仲間に運転を代わってもらうか、医療機関に相談してください。
やってはいけない対処|熱い風呂に直行・飲酒・こする
よかれと思ってやりがちな対処の中に、実は状態を悪化させるものがあります。とくに中等度以上が疑われる場面では、「何をしないか」のほうが重要です。
熱い風呂・熱いシャワーに直行する
海上がりに銭湯や温泉へ直行、というのは秋冬サーファーの定番です。軽度で、着替えて震えが収まった後なら問題ありません。ただし、震えが止まらない状態で熱い湯に浸かるのはおすすめできません。
熱い湯は皮膚の血管を一気に開き、冷えた血液が体幹に戻るアフタードロップを強めます。同時に血圧が下がって、湯船で立ちくらみや失神を起こすリスクもあります。順番としては「着替えて温かい飲み物→震えが収まってから→ぬるめの湯」です。海帰りの温泉はサーフィン帰りの海近温泉10選で紹介していますが、入る順番だけは守ってください。
アルコール・カフェイン・喫煙
「体が温まる」といわれるお酒は、実際には皮膚の血管を広げて熱を逃がし、寒さの自覚も鈍らせます。低体温症の対処としては最悪の組み合わせで、救急医学のどの資料でも明確に禁止されています。
コーヒーなどカフェインの強い飲み物も、利尿作用で脱水を進めるため、回復期には向きません。喫煙は血管を収縮させて末梢の血流を落とします。海上がりの一服は、震えが完全に収まってからにしてください。
手足をこする・激しく体を動かす
冷えた手足をゴシゴシこする、ジャンプして温まろうとする。軽度ならある程度は構いませんが、中等度以上が疑われる人に対しては禁止です。末梢の冷たい血液を一気に体幹へ送ってしまうのに加え、冷えた心臓は刺激に弱く、乱暴に扱うと重い不整脈を起こすことがあります。
中等度以上の人への対応は「動かさない・横にする・濡れた物を取り除いて体幹を包む・119番」の4つに絞ってください。加温するなら、脇の下・股の付け根・首の周りに、衣類の上から湯たんぽやお湯入りペットボトルを当てるのが基本です。
通報の目安|119番と118番
陸に上がっている人の重い症状は119番(消防・救急)です。以下のいずれかがあれば、迷わず通報してください。
- 震えが止まっているのに寒がっている、または反応が鈍い
- 呼びかけに正しく答えられない、つじつまが合わない
- まっすぐ歩けない、立てない
- 着替えて温めても30分以上改善しない
- 呼吸が浅い、または確認できない
海上で流されている人、漂流している人を見つけた場合は118番(海上保安庁)です。位置がわかる目印(ポイント名、駐車場名、目立つ建物)を伝えられるようにしておきましょう。通報をためらって様子を見た結果、悪化するケースのほうが圧倒的に多いです。
装備で防げる部分|ウェット・フード・グローブ・ブーツ・お湯

ここまで読むと、「結局は装備で防げる部分が大きい」と気づくと思います。装備は寒さを我慢しないためのものではなく、熱喪失の時計を遅らせて安全な持ち時間を増やすための道具です。水温帯ごとに整理します。
| 水温 | 基本の装備 | 追加したい末端装備 | 安全な持ち時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 22℃以上 | スプリング/シーガル/3mmジャーフル | 不要 | 2〜3時間 |
| 18〜22℃ | 3mmフルスーツ(18℃以下はインナー追加) | 風が強い日はヘッドキャップ | 90〜120分 |
| 16〜18℃ | 3mmフル+インナー、または5/3mmセミドライ | ブーツ投入(16〜18℃) | 90分 |
| 14〜16℃ | 5/3mmセミドライ+インナー | グローブ投入(14〜16℃) | 60〜90分 |
| 14℃以下 | セミドライ(起毛)+インナー | フード必須、ブーツ5mm | 60分 |
| 10℃以下 | セミドライ厚手/ドライスーツ | 全部盛り | 45〜60分 |
ウェットとインナー|体幹の断熱を最初に
低体温症で守るべきは深部体温、つまり体幹です。だから優先順位は「体幹の断熱→末端」の順になります。3mmフルスーツで震えが早い人は、まずウェットスーツインナーを足すだけで持ち時間が30分ほど伸びることが多いです。
水温16℃を下回る日は、素直にセミドライに切り替えましょう。「3mmで我慢して鍛える」は、低体温症の観点からはただのリスクです。ウェットのゆるみや水の出入りも大きな熱喪失源で、古いスーツは買い替えサインを確認してください。
末端3点|ブーツ・グローブ・フードで「動ける時間」を守る
「体の熱の70%は頭から逃げる」という話をよく聞きますが、これは正確ではありません。頭からの熱喪失は体表面積に応じた1割前後です。ただし、頭と手足はサーフィン中ずっと水と風にさらされる部位です。しかもここが冷えると「手指が動かない」「判断が鈍る」という上がる基準に直結します。
だからこそ末端3点は重要です。切替の目安は、ブーツが水温16〜18℃、グローブが14〜16℃、フードは14℃以下または風の強い日、と覚えてください。詳しくはサーフブーツはいつから?、サーフグローブはいつから?、ヘッドキャップの水温別選び方で解説しています。
海上がりの装備|お湯・ドライローブ・車内暖房
アフタードロップ対策の主役は、入水中の装備ではなく海上がりの装備です。ポリタンクのお湯(20Lで2人分)、ドライローブかポンチョ、乾いたインナーと保温着、甘い温かい飲み物。この4点を「入水前に、手の届く順番で」車に並べておく。それだけで海上がりの10分の質が変わります。
秋冬に何をいつ買うかは秋冬サーフィン装備チェックリストに一覧があります。低体温症の観点で買う順番を決めるなら、「インナー→ブーツ→お湯とローブ→グローブ→フード」です。
よくある質問(FAQ)
Q. サーフィンで低体温症になるのは冬だけですか?
いいえ。水は空気の約25倍の速さで熱を奪うため、水温20℃前後の秋でも長時間入れば体温は下がります。特に10〜11月は、水温より気温と風が先に冬になり、上がった後の気化熱で震えが止まらなくなるケースが増えます。装備が軽い分、真冬より秋のほうがヒヤリとする場面は多いと考えてください。
Q. 震えが止まったら海から上がるべきですか?
海に入ったまま、あるいは温める行動を何もしていないのに震えが止まった場合は、即座に上がってください。震えは体が熱を作る反応で、それが止まるのは熱を作るエネルギーが尽きかけているサインです。着替えて温かい飲み物を飲んだ後に自然に収まる震えとは、まったく別物です。
Q. 冬のサーフィンは何分までなら安全ですか?
一律の答えはありませんが、目安は1ラウンド90分、水温15℃以下やウェットが薄い日は60分です。時間より優先すべきは体のサインで、震え・手指・言葉・判断の4項目のうち2つが重なったら、時間に関係なく次の波で上がってください。迷ったら一度上がって入り直すほうが、結果的に長く海にいられます。
Q. 海から上がった後のほうが寒くなるのはなぜですか?
2つの理由があります。1つは気化熱で、濡れた体に風が当たると水温より速く熱が逃げること。もう1つはアフタードロップで、動き出すと冷えた手足の血液が体幹に戻り、深部体温がさらに下がることです。対策は「風を断つ→濡れを断つ→体幹から温める→糖分」の順番を守ることです。
Q. 低体温症のとき、熱いお風呂に入ってもいいですか?
震えが止まらない状態で熱い湯に直行するのは避けてください。皮膚の血管が一気に開いてアフタードロップを強め、血圧低下で湯船でのふらつきや失神につながることがあります。まず着替えて温かい飲み物を飲み、震えが収まってから、ぬるめの湯に入るのが安全な順番です。
Q. 仲間が呂律が回らない・ふらついている場合はどうすればいいですか?
中等度の低体温症が疑われる状態です。無理に歩かせたり、手足をこすったりせず、風を避けた場所で横にして、濡れたウェットを脱がせて体幹を毛布などで包み、119番に通報してください。加温するなら脇の下・股の付け根・首に、衣類の上からお湯入りペットボトルを当てます。海上で漂流している場合は118番です。
まとめ|「震えが止まったら上がる」を合言葉に
秋冬のサーフィンで一番大事なのは、寒さを我慢する根性ではなく、上がる線引きを持っていることです。この記事の要点を整理します。
- 水は空気の約25倍の速さで熱を奪う。ウェットは「遅らせる」道具で、時間がたてば必ず冷える
- 段階は震えと意識で判断する。体温計は当てにならない
- 海に入ったまま震えが止まったら、回復ではなく悪化。即撤収
- 上がる基準は7項目。体の4項目(震え・手指・言葉・判断)が2つ重なったら次の波で上がる
- 海上がりの10分はアフタードロップと気化熱の時間。「風→濡れ→体幹→糖分」の順番で
- 熱い風呂直行・飲酒・こする・激しく動くはNG。中等度以上は動かさず119番、海上は118番
- 装備は持ち時間を買うもの。インナー→ブーツ→お湯とローブ→グローブ→フードの順にそろえる
海は逃げません。震えが止まる前に上がって、お湯を浴びて、温かいものを飲んで、また次の週末に入る。それを続けられる人が、冬を越えて一番うまくなります。関連記事の秋サーフィンの寒さ対策、秋冬装備チェックリスト、ポリタンクとお湯の使い方も合わせて読んでみてください。今シーズンの「上がる基準」を、自分の言葉で決めておきましょう。
参考資料:日本救急医学会「低体温症」/総務省消防庁 応急手当講習テキスト/山岳医療救助機構「低体温症の基本」/MSDマニュアル家庭版「低体温症」/公益財団法人スポーツ安全協会「手足の震えは体温低下の警告サイン!」


















