駐車場に着いた瞬間、車の窓越しに海が真っ白でした。手前から奥まで、割れているというより崩れている。ボードを降ろす手が止まって、そのまま10分ほど眺めて、結局エンジンをかけ直す。台風シーズンにサーフィンをしていれば、誰もが一度は経験する光景ですよね。
でも、そこで家に帰るのは少し早いんです。同じ日、同じ時刻に、車で40分の別のポイントでは腹から胸のきれいな波が並んでいた。台風スウェルの日には、こういうことが本当によく起きます。
台風の記事の多くは「入っていいか、ダメか」を教えてくれます。ただ、実際に必要なのはその先です。ダメだったとき、どこに移動すれば入れるのか。この記事では「うねりを外す」という発想でポイントを選ぶ考え方を、地形ごとの減衰の目安、関東エリア別の逃げ場マップ、台風の位置別セオリーまで落とし込んで解説します。
読み終わるころには、波情報を開いた瞬間に「今日はあっちだな」と当たりをつけられるようになっているはずです。
この記事の目次
- 台風スウェルは「入る/入らない」の二択じゃない
- 「うねりを外す」とは何か|エネルギーを削る4つの仕組み
- 【早見表】関東エリア別・うねりの逃げ場マップ
- 台風の位置別・狙い方セオリー4パターン
- 出発前30分でポイントを絞る5ステップ
- 外しすぎの失敗と、逆に「拾いにいく」日
- 移動するか、やめるか|外しても入ってはいけない条件
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
台風スウェルは「入る/入らない」の二択じゃない

台風スウェルの日、多くのサーファーは2択で考えます。行くか、行かないか。でも実際の海は、もっと連続的にできています。
同じ日に、頭オーバーと腰腹が同居する
台風スウェルの正体は、遠くの海で作られた長い周期のうねりです。周期が10秒を超えると、波は「風で押された水面の凸凹」ではなく「エネルギーの塊」として海を渡ってきます。
ここが重要なところです。エネルギーの塊は、まっすぐ進みます。まっすぐ進むということは、進行方向を向いていない海岸には届きにくいということでもあるんです。
南うねりが入っている日、南向きの海岸は頭オーバーでクローズしています。でも同じ時刻に、東向きの海岸は膝腰しかない。西に開いた湾の奥は、ほとんど池のようになっている。これは珍しい現象ではなく、台風スウェルではむしろ標準です。
「外す」は逃げではなく、狙いにいく技術
「うねりを外す」と言うと、妥協して小さい波で我慢する、というイメージを持つかもしれません。でも実際は逆です。
台風スウェルの日に減衰した場所を選ぶと、面白いことが起きます。うねりのパワーだけが残って、サイズが自分に合うところまで削られる。普段はダラダラ割れる湾内のポイントに、はっきりしたショルダーが立つ。しかもメインのポイントに人が集中しているので、驚くほど空いている。
台風シーズンにいちばん良い思いをしている人たちは、たいてい「外す場所」を何カ所か持っています。全力で当てにいくのが上級者、というわけではないんです。
判断の順番を入れ替える
普段の判断はこうなりがちです。「ホームの波を見る → 大きすぎる → 中止」。この順番だと、選択肢が最初から1つしかありません。
台風の日は、順番をこう入れ替えてみてください。
- 今日のうねりはどの方角から来ているか
- そのうねりを正面で受ける海岸はどこか(=今日は避ける場所)
- そのうねりが斜めにしか入らない海岸はどこか(=今日の候補)
- 候補の中で風がオフ〜サイドオフになるのはどこか
ホームの波を見るのは、この4つを考えたあとで十分です。詳しいうねりの向きの読み方はうねりの向きとは?ポイント選びが変わる読み方ガイドにまとめてあります。この記事は、その向きを「今日どう使うか」の実践編だと思ってください。
「うねりを外す」とは何か|エネルギーを削る4つの仕組み

うねりが弱まる理由は、感覚ではなく仕組みで説明できます。大きく4つです。この4つを知っておくと、地図を見ただけで「ここは削られるな」と読めるようになります。
① 入射角|正面から何度ズレているか
いちばん効くのがこれです。海岸が向いている方角と、うねりが来る方角のズレ。
ズレが0度なら真正面で受け止めます。ズレが90度に近づくほど、うねりは海岸線を「なめる」ように通り過ぎるだけになります。実際の海では、ざっくり次のような感覚で効いてきます。
| 正面からのズレ | うねりの入り方 | 頭オーバーの日の体感 |
|---|---|---|
| 0〜20度 | ほぼフルに反応 | 頭オーバー・クローズ気味 |
| 30〜45度 | やや落ちるが十分反応 | 肩〜頭 |
| 50〜70度 | はっきり落ちる | 胸〜肩 |
| 80度前後 | かろうじて回り込む | 腰〜胸 |
| 90度超(背面) | ほぼ届かない | 膝以下〜フラット |
ポイントは、ズレが50度を超えたあたりから急に落ちることです。30度のズレでは大して減りません。「少し向きが違うから大丈夫だろう」で行くと、普通にクローズしている。これが台風の日によくある読み違いです。
② 回折|岬や島を回り込むときに削られる
うねりは障害物の裏側にも、多少は回り込みます。これを回折といいます。ただし回り込むぶんだけエネルギーは減ります。
岬の先端の裏側なら、うねりは少しだけ回り込んで届きます。岬の付け根までは、ほとんど届きません。同じ「岬の裏」でも、先端寄りか付け根寄りかで別世界になるんです。
だから台風の日は、避難先の中でも岬の先端寄りから順に見ていくのがセオリーになります。付け根まで行くと、今度は削られすぎて何もない。
③ 屈折|浅瀬や地形でうねりが曲げられる
うねりは浅いところでスピードが落ちます。片側だけ浅い地形にぶつかると、その側だけブレーキがかかって、進む向きが曲がります。
これが効くと、地図上は「向きが合っていない」はずの海岸に、うねりが曲がって入ってきます。逆に、沖に深い谷(海底谷)がある場所ではエネルギーが左右に逃げて、両隣より小さくなることもあります。
ここは地図だけでは読み切れない部分です。だからこそ、実際に行った日の記録を残しておく価値があります。「南西うねり2.5m周期12秒のとき、あそこは胸だった」というメモが、翌年の自分を助けてくれます。海底地形の基本はサンドバーとは?サーフィンで良い波ができる地形の読み方もあわせてどうぞ。
④ 摩擦減衰|浅い海を長く走ると弱る
浅い海底の上を長い距離走ると、うねりは海底との摩擦でエネルギーを失います。遠浅の湾の奥が穏やかなのは、向きの問題だけでなく、これも効いています。
ここで押さえておきたいのが、周期が長いうねりほど深い水深まで海底の影響を受けるという性質です。周期の長い台風うねりは、水深が波長の半分(周期12秒なら水深およそ110m)を切ったあたりから海底を感じ始めます。
つまり台風うねりは、遠浅の海では削られやすい一方、深い水深がポイント直前まで迫っている場所では、ほぼ無傷で到達して壁になります。「同じ湾内なのに、あそこだけ手がつけられない」の正体はこれです。
| 仕組み | 減衰の効き方 | 地図での見つけ方 |
|---|---|---|
| 入射角 | 最大。50度超で急落 | 海岸線の向きを測る |
| 回折 | 岬の裏で大きい | 突き出た岬・島・半島 |
| 屈折 | 増減どちらもあり | 沖の浅瀬・海底谷 |
| 摩擦減衰 | 遠浅ほど大きい | 等深線の間隔が広い場所 |
【早見表】関東エリア別・うねりの逃げ場マップ

ここからは具体的な地図の話です。関東近郊のエリアを、海岸の向きで整理してみます。
まず、エリアの「向き」を覚える
| エリア | 海岸のおおまかな向き | よく反応するうねり | ほぼ反応しないうねり |
|---|---|---|---|
| 湘南(茅ヶ崎〜鎌倉) | 南〜南南西向き | 南西・南 | 北東・東 |
| 西湘(大磯〜小田原) | 南東〜南向き | 南・南東 | 西寄り |
| 千葉南(外房南部) | 南東〜東南東向き | 南東・南・東 | 西寄り |
| 千葉北(九十九里) | 東〜東南東向き | 東・南東・北東 | 南西 |
| 茨城(鹿嶋〜大洗) | 東〜東北東向き | 東・北東 | 南西 |
| 内房(東京湾内) | 西〜北西向き | ほぼなし(強風時の風波のみ) | 外洋うねり全般 |
この表の使い方はシンプルです。今日のうねりが南西なら、湘南は真正面。千葉北や茨城は大きくズレます。うねりが東なら、その逆になります。
南〜南西うねりの日|どこへ逃げるか
台風が日本の南から北上してくる、いちばん多いパターンの日です。湘南・西湘・千葉南が正面を向きます。
- 第1候補:千葉北(九十九里)。南西うねりに対して50〜70度ズレるので、外房南部が頭オーバーでも胸〜肩に収まることが多い。
- 第2候補:茨城。さらにズレが大きく、南西うねりでは膝腰まで落ちることも。千葉北でも大きすぎる日の受け皿。
- 第3候補:相模湾の西側・岬の裏。回折で削られた小さめの波を拾える。ただし削られすぎてノーサーフのことも多い。
- 最終手段:内房。外洋うねりはまず入らない。ただし波もほぼないので、これは「入る場所」ではなく「見送りの確認」に近い。
ここで大事なのは、南西うねりが強い日ほど千葉北の中でも南寄り(一宮側)と北寄り(飯岡側)で差が出ることです。九十九里は約60kmの弧を描いていて、南端と北端では海岸の向きが20度以上違います。「九十九里に行く」ではなく「九十九里のどのあたりに行くか」まで決めましょう。
東〜北東うねりの日|逆側へ動く
台風が日本の東海上を北上したり、通過後に東うねりに変わったときのパターンです。今度は千葉北と茨城が正面を向きます。
- 第1候補:千葉南(外房南部)。東うねりに対して斜めに受けるので、九十九里より一段落ちる。
- 第2候補:湘南。南向きなので東うねりはかなり削られる。九十九里がクローズでも湘南は腰腹、という日がある。
- 第3候補:西湘。さらに西へ。東うねりの回り込みだけを拾う形になる。
東うねりの日に湘南へ動く、という選択は意外と見落とされます。「湘南は波がない」という先入観があるからです。でも台風で東うねりが強い日は、湘南がちょうどいいサイズになる貴重な日でもあります。
「逃げ場」を選ぶときの3つの注意
逃げ場マップを使うときに、必ず一緒に確認してほしいことが3つあります。
1つめ、風は別問題です。うねりを外せてサイズがちょうどよくても、そこがオンショア10m/sなら海面はグチャグチャになります。うねりの向きと風向きは独立して考えてください。判断基準はサーフィンは風速何メートルまで?入れる日の判断基準が詳しいです。
2つめ、移動時間のあいだにうねりは伸びます。台風接近中は、2時間で1段階サイズアップすることが普通にあります。出発時点で「ちょうどいい」場所は、到着時に「大きすぎる」場所になっている可能性がある。接近フェーズでは、ワンサイズ小さめの候補を選ぶのが安全側です。
3つめ、人が集まります。逃げ場は誰にとっても逃げ場です。台風の日の千葉北は、平日でも駐車場が埋まります。混雑した中でパワーのある波に入るのは、それ自体がリスクです。「サイズは合っているが人が多すぎる」も撤退理由になります。
台風の位置別・狙い方セオリー4パターン
台風の位置がわかれば、うねりの向きはかなり絞り込めます。関東目線で、代表的な4パターンを整理します。
パターン1:はるか南、北緯20度付近
いちばん美味しいフェーズです。台風本体は遠く、風の影響はゼロ。長い周期のうねりだけが先に届きます。
この段階では、うねりの向きは南〜南南東。周期は12秒前後まで伸びてきます。ポイント選びは「外す」よりも「拾う」側に振ります。南に開いた、水深のあるポイントを素直に選ぶのが正解です。
ただし注意点があります。周期12秒以上のうねりは、間隔が空きます。10分以上なにも来ない時間のあとに、いきなり2〜3本のセットが来る。「思ったより小さいな」と沖まで出たところで、頭オーバーのセットに捕まる。これが台風スウェルでいちばん多い事故パターンです。
パターン2:本州の南海上、接近中
うねりの向きが南西寄りにシフトし、サイズが一気に上がるフェーズです。同時に、台風の外側の風が届き始めます。
ここが「外す」技術の出番です。湘南・千葉南は正面から受けて手に負えなくなる。千葉北・茨城へ動いて、ズレで削るのがセオリーになります。
このフェーズでは時間が最大の敵です。朝は良かったのに昼にはクローズ、というのが普通に起きます。「早い時間に、外した場所で、短時間」が基本の組み立てになります。
パターン3:東シナ海・日本海コース
台風が九州の西を通って日本海へ抜けるコースです。期待して待っていたのに、太平洋側はほとんど反応しない。「肩透かし」の代表格ですね。
理由は2つあります。うねりの向きが西寄りに寄りすぎることと、九州・四国という巨大な陸地がブロックしてしまうこと。太平洋側から見ると、日本列島そのものが巨大な「岬」として働くわけです。
このコースでは、ポイント選びの前にそもそも行くかどうかを考え直すのが現実的です。ただし強い南風だけは吹くので、南向きの海岸に風波が立つことはあります。うねり待ちではなく風波狙いに切り替える日だと割り切りましょう。
パターン4:通過後・東へ抜けたあと
多くの人にとって、いちばん現実的な狙い目です。台風が抜けて風が北寄りのオフショアに変わり、残ったうねりの面が整います。
うねりの向きは東〜北東寄りにシフトすることが多く、千葉北・茨城が反応します。ここでも「大きすぎたら千葉南や湘南へ」という外し方が効きます。
ただし通過後には別のリスクが加わります。地形の激変、大量の漂流物、河川からの濁水。このあたりは台風後のサーフィンは危険?水質・波・地形の判断基準で詳しく扱っています。波の面がきれいでも、水中は別の話です。
| 台風の位置 | うねりの向き | 基本方針 | 関東の狙い目 |
|---|---|---|---|
| はるか南(北緯20度付近) | 南〜南南東 | 素直に拾う | 千葉南・湘南 |
| 本州南海上・接近中 | 南西寄りへシフト | 外す(ズレを作る) | 千葉北・茨城 |
| 東シナ海・日本海 | 西寄り/届かない | 期待しない | 風波狙いに切替 |
| 通過後・東へ | 東〜北東 | 面の良さを拾う | 千葉北・茨城/大きければ千葉南・湘南 |
出発前30分でポイントを絞る5ステップ
理屈がわかったところで、実際の朝の手順に落とし込みます。慣れれば5分、最初は30分あれば回せます。
ステップ1:うねりの向きと周期を数字で取る
波高だけ見て終わりにしないでください。取るべきは3点セットです。うねりの向き(方角)・周期(秒)・波高(m)。
Windyなら地点をタップして天気ピッカーを出せば、この3つが一度に出ます。「SWELL」と書かれている行がメインのうねりです。「WIND WAVE(風浪)」は別物なので混同しないように。使い方はWindy(ウィンディ)の波・台風の見方にまとめています。
ステップ2:面積計算でサイズ感を掴む
波高と周期から、ざっくりしたサイズ感を出す方法があります。サーファーの間で使われている経験則です。
計算式は「波高 × 周期 ÷ 2」。三角形の面積のイメージですね。この数値と体感サイズは、おおよそ次のように対応します。
| 計算値 | 目安サイズ | 台風の日の意味 |
|---|---|---|
| 1.0前後 | モモ以下 | 外しすぎ。もう一段近づける |
| 1.5前後 | 腰 | 初心者でも成立しやすい |
| 2.0前後 | 腹 | ちょうどいい着地点 |
| 3.0前後 | 胸 | 中級者の狙い目 |
| 4.0前後 | 肩 | 台風パワーだと体感はもう一段上 |
| 5.0以上 | 頭以上 | 外す先を探すフェーズ |
注意点をひとつ。この数値は正面で受ける海岸の値です。ズレのある海岸ではここから落ちます。そして周期が長い台風うねりでは、同じ計算値でもパワーが体感で一段強く出ます。数字が同じでも、周期6秒の腹と周期13秒の腹はまったく違う波です。周期の読み方はうねりの周期の見方|秒数でわかる良い波の見極め方にまとめてあります。
ステップ3:向きから候補を3つに絞る
前章の逃げ場マップを開いて、今日のうねり向きに対して「正面」「45度ズレ」「70度ズレ」の3エリアを選びます。
候補を3つ持つのがコツです。1つだと外したときに詰みます。5つだと迷って動けなくなる。3つがちょうどいい数です。
ステップ4:3候補の風をチェックする
ここで一気に絞れます。うねりが合っていても、風が正面から10m/s吹いていれば海面は成立しません。
台風接近時は、時間による風の変化も見ておきましょう。「9時までは北、10時から南に振れる」なら、勝負は9時までです。台風時は風向きが1〜2時間で大きく変わることがあります。
ステップ5:ライブカメラで裏を取る
最後は必ず「目」で確認します。予報は格子で計算された平均値で、ポイント単位の細かい反応は再現しきれません。
見るべきは3点です。白波が沖のどこまで出ているか、セットとセットの間隔、水面に流れの筋が出ていないか。沖に白い筋が長く伸びていたら、それは風とカレントのサインです。関東のライブカメラは無料で見れる波情報ライブカメラ一覧 千葉・神奈川編にまとめてあります。
そしてもうひとつ。台風の日はカメラの映像が実際より小さく見えることを頭に入れておいてください。周期が長いと、カメラの画角に入る時間帯にセットが来ないことがあるからです。5分見て判断せず、最低でも10分は見る。これだけで読み違いがかなり減ります。
外しすぎの失敗と、逆に「拾いにいく」日
外す技術には、当然ながら失敗もあります。ここは正直に書いておきます。
よくある外しすぎパターン3つ
①湾の奥まで入りすぎる。安全側に振りすぎて、完全な鏡の海に到着する。往復4時間かけてノーサーフ、というのは台風シーズンあるあるです。湾は「奥」ではなく「入口寄り」から見ていきましょう。
②岬の付け根に入る。回折で削られるのは正しいのですが、削られすぎます。岬の裏を狙うなら先端寄りから。
③ピークを過ぎてから動く。台風うねりの落ち方は、上がり方より急です。ピークから半日で一段、1日で二段落ちることがあります。「明日のほうが入りやすいだろう」と待って、翌日にはフラット。台風スウェルは待ってくれません。
逆に「拾いにいく」べき日
外すのではなく、うねりに対して正面を向いた場所へ「拾いにいく」ほうが正解の日もあります。判断の目安はこの3つです。
- 周期が長いのに波高が低い(例:波高0.8m・周期13秒)。うねりのエネルギーはあるが量が少ない。正面で受けないと形にならない。
- 台風がまだ遠い初動フェーズ。風の影響がなく、面がいちばんきれい。
- うねりの向きが自分のホームから大きくズレている。ズレ80度の海岸で待つより、正面を向いた海岸へ移動したほうが確実。
「外す/拾う」はスイッチではなく、ダイヤルです。今日はどのくらい削るか、を調整する感覚を持てるようになると、台風シーズンの打率がはっきり上がります。
移動コストを先に決めておく
実務的な話をひとつ。台風の日は、出発前に「移動の上限」を決めておくと判断が速くなります。
| 状況 | 移動の考え方 | 目安 |
|---|---|---|
| 接近フェーズ(上がり続ける) | 移動中にさらに上がる。早めに決める | 片道1時間以内 |
| ピーク付近(横ばい) | 読みやすい。遠征の価値あり | 片道2時間まで |
| 減衰フェーズ(落ちる) | 着くころには小さい。近場優先 | 片道1時間以内 |
| 通過後・面が整った日 | いちばん遠征する価値がある | 片道2〜3時間も可 |
台風の日は道路状況も読めません。強風で高速が通行止めになることもあります。帰りの時間も含めて計画するのが、台風シーズンのポイント選びの一部です。
移動するか、やめるか|外しても入ってはいけない条件

ここまで「どこなら入れるか」を書いてきましたが、最後に逆の話をします。うねりを外しても入ってはいけない条件です。
サイズが合っていても中止すべき5条件
- 沖に向かう流れが目視できる。海面に色の違う筋、泡やゴミが一直線に沖へ流れていく帯。台風時のカレントは普段の数倍の速さになります。
- セット間隔が10分以上ある。静かな時間に入って、抜けられなくなるパターン。周期の長い日ほど危険です。
- 波が「一気に立って一気に潰れる」。ショルダーが張らずに全面で崩れる波は、パワーの逃げ場がありません。
- 自分以外に誰も入っていない。台風の日にローカルがゼロなのは、たいてい理由があります。
- 暴風警報・波浪警報が出ている。判断以前の問題です。
「外したから安全」ではない
ここは誤解されやすいところです。うねりを外してサイズが腹になっても、台風うねり由来である以上パワーは残っています。
周期13秒のうねりが削られて腹サイズになった波は、普段の周期7秒の腹サイズの波とは別物です。巻かれたときの押さえつけられる時間が違う。リーシュへの負荷も違います。
台風前には、リーシュコードとフィンプラグを一度確認しておきましょう。細いリーシュを使っている人は、台風シーズンだけ太めに替えるという手もあります。
入ってからの撤退ライン
入る前の判断と同じくらい、入ってからの判断が大事です。台風の日は状況が動き続けます。
- パドルで同じ場所をキープできなくなったら上がる
- 15分ごとに岸の目印(建物・旗)を見て、横流れの量を測る
- セットが一段大きくなったと感じたら、次のセットまでに岸へ向かう
- 入水時間はいつもより短く設定する(目安:60〜90分)
入っていい日と危険な日の見分け方そのものは、台風サーフィンの見極め方|入っていい日と危険な日で詳しく解説しています。この記事と合わせて読むと、「判断」と「移動」の両輪がそろいます。
よくある質問(FAQ)
台風スウェルは何日前から入りますか?
台風の位置と勢力によりますが、関東では上陸・最接近の2〜3日前からうねりが反応し始めるケースが多いです。昔から「台風が北緯20度を超えたら入りだす」という経験則も使われてきました。ただし北緯20度を超えても届かない台風はありますし、逆に北緯10度付近からのうねりが届くこともあります。日数で覚えるより、波予報で周期が10秒を超えて伸び始めたかどうかを見るほうが確実です。周期が12秒を超えてきたら、台風うねりが本格的に届きつつあるサインだと考えてください。
うねりの向きはどこで確認できますか?
無料ならWindyがいちばん手軽です。メニューから「波」を表示し、知りたい地点を長押しして天気ピッカーを出すと、卓越波向・周期・波高がまとめて表示されます。「SWELL」の行がメインのうねりです。より公的なデータが欲しいときは、気象庁の沿岸波浪24時間予想図が使えます。エリアごとに卓越波向・周期・波高が記載されているので、大きな傾向をつかむのに向いています。どちらもポイント単位の精度はないので、最後はライブカメラで確認しましょう。
初心者は台風スウェルの日にどこへ行けばいいですか?
正直にお伝えすると、台風スウェルの日は初心者の方には基本的におすすめしません。理由はサイズではなくカレントです。台風時の離岸流は普段より速く、パドルで戻れなくなるリスクが高まります。それでも入るなら、うねりを70度以上外したエリアで、周期が10秒を切っていて、ライフセーバーや経験者が近くにいる海を選んでください。そして到着してから海を10分見て、少しでも迷ったらやめる。台風スウェルは年に何度も来ます。無理をする理由はありません。
湾内なら台風でも安全に入れますか?
外洋うねりが入りにくいという意味では、確かにサイズは落ちます。ただし「安全」とイコールではありません。湾内では別のリスクが出てきます。台風の強風で立つ風波は、周期が短く不規則で、面が荒れます。また湾内は水深が浅く河川の流入も多いため、大雨のあとは水質が悪化しやすい。さらに、堤防や消波ブロックの近くは強風時に危険です。湾内は「うねりを外す場所」であって「何でもありの安全地帯」ではないと理解しておいてください。
台風スウェルはどのくらい続きますか?
ピークからの落ち方は、台風の速度と距離によって変わります。目安として、速く抜けていく台風なら半日〜1日でサイズが一段落ち、2日後にはほぼ平常に戻ります。ゆっくり北上する台風や、抜けたあとに次の高気圧が張り出すパターンでは、3日ほどうねりが残ることもあります。実務的には、ピーク翌日の午前中が「サイズも面も両立する」いちばん美味しい時間帯になりやすいです。ただし通過直後は漂流物と濁りがあるので、水面だけで判断しないようにしましょう。
「うねりを外す」と「風裏を探す」は同じですか?
違います。混同しやすいので整理しておきます。「うねりを外す」は波のサイズを削るための場所選びで、海岸の向きと地形で決まります。「風裏を探す」は海面のコンディションを整えるための場所選びで、風向きと陸地の地形で決まります。台風の日は両方が必要です。うねりだけ外して風が正面なら面はグチャグチャ。風裏に入ってもうねりが正面なら大きすぎて入れない。「うねりが斜め、風がオフ〜サイドオフ」の交差点を探すのが、台風の日のポイント選びのゴールです。
まとめ|台風の日は「行くか帰るか」ではなく「どこへ動くか」
最後に要点を整理します。
- 台風スウェルは二択ではない。同じ日、同じ時刻に、頭オーバーと腰腹が別の海岸で同居しています。
- 削る仕組みは4つ。入射角・回折・屈折・摩擦減衰。まず入射角、次に回折で当たりをつけます。
- ズレ50度が分岐点。30度では大して減りません。外すなら50度以上を意識しましょう。
- 候補は3つ持つ。正面・45度ズレ・70度ズレのエリアを、うねり向きから逆算して選びます。
- 風は別問題。「うねりが斜め、風がオフ」の交差点がゴールです。
- 外しても台風うねりはパワーが残る。サイズが下がっても、巻かれたときの重さは普段と違います。
台風の日の駐車場で、真っ白な海を見ながら帰り支度をしていたころの自分に言いたいのは、たったひとつです。「地図をもう一回見てみ」。海岸線は、思っているよりずっといろんな方向を向いています。
今年の台風シーズン、外して当てた1本が、たぶんいちばん記憶に残ります。準備をして、無理をせず、海の機嫌に合わせて動いていきましょう。
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